少しだけ、阿良々木先輩と私しか知らない話をしようと思う。
卒業式の日、私の愛すべき先輩方は無事に(一名無事と言って良いか分からない人もいたことを述べておくが)卒業証書を受け取った。
卒業ムードが漂う中でも阿良々木先輩はやはり阿良々木先輩で、高校生活最後の日もやはり何やらいらないかもしれないお節介を焼いて最高の悪目立ちをしたらしいが、学年が一つ下の私はそんなことを知る由も無く、在校生として式の撤去作業に追われていた。 …
ひとでなしの恋
Vampirism
Vampirism
01
気付くのは、その日一日を終えようとしているタイミングである時が多い気がする。当たり前と言えば当たり前のことだ。吸血鬼は夜に活動するものだから。
口腔内に違和感を覚えて自分の舌を八重歯に当てると、予想に違わぬ鋭い感触。そうなるとすぐにでも鏡を覗きたくなって、僕は洗面台の前に立つ。
そろそろか、と鏡の向こうで目いっぱい口を広げた間抜けな顔を披露している自分に向かって問い掛ける。
口の中の尖った八重歯が僕の代わりに返事をした。
認めたくはないが確かな返事のようだった。後から愛用の手帳(月齢カレンダー付き)で確認しても、満月が近かいようだった。応じて、僕の体は変化しているらしい。
出そうになったため息を欠伸で誤魔化した。
人間には三つの欲があるという。睡眠欲、食欲、性欲――つまりは生きていく上の三大欲求。
勿論、僕にも相応にある。しかし、それとは別の、もうひとつの厄介な欲が顔を出しつつあるのが飲み込んだため息の原因だ。
吸血鬼もどきである僕には、吸血衝動がある。 …
ハッピーバースデーを、あなたに
「お誕生日おめでとうございます」
と、真っ黒な後輩は真っ黒な瞳に薄い微笑みらしきものを浮かべて、恭しくのたまったのだった。ついでに今日の彼の私服も真っ黒いそれだった。休みの日にわざわざ家にまで訪れて、人を祝おうとしてくれる気持ちはありがたいのだが。
「……扇くん。私の誕生日、今日じゃないぞ」
「ええ、ええ、分かっておりますよ。僕がお慕いする駿河先輩の生まれた日を間違える筈がないじゃないですか。全く、駿河先輩はもう少し僕のことを理解しておいてくださいよ」
「いや、きみが私のことを理解してないから先輩としてツッコミを入れておいた訳だが……なんだその上から目線の発言は。きみは私を本当に慕っているのか?」
「勿論です。来週ですよね、お誕生日」
「ああ、まあ、……そうだけど」 …