月は空にメダルのように

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「おやおや、駿河先輩。これからご退勤ですか?」
 音もなく進む自転車で横付けしてきたのは、見知った顔の後輩の男の子で。全く、きみは嫌なタイミングで遭遇するなと、私は心中で苦笑を噛み潰す。
 顔を見ずとも誰かと分かる――のは、この場合はあまり嬉しくないな。
 現在時刻。日付が変わるまでおよそ一時間といったところか。
「はい、現在午後十一時ジャスト。月が綺麗な夜更けですが、女性がお一人で出歩くには相応しくないお時間です。仕事熱心もよろしいですが、夜更かしはお身体に障りますよ」
「そういうきみは何をしていたんだ? わざわざ私に告白する為に話しかけてきたのか? こんな夜更けに」
 制服のままだし。補導とかされないのだろうか。……されないんだろうなあ。
 されたとしても、この子の場合なんだかんだとおまわりさんまで煙に巻いてしまいそうだ。

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きみと私の夏休み

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「プールに行かないか?」
 と、提案したのは神原の方だった。
 理由を聞けば、
「偶にはバスケ以外の遊びをしても良いじゃないか」
 という当たり障りのない返事が返ってきた。

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ひとでなしの恋

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03 彼女のそれは恋ではない

 別れるからには徹底的に別れよう。
 躊躇いなく割り切ったかのように下した決断は、言うほど前向きな気持ちにはなれなかったし、そんな身辺整理的な立ち振る舞いこそ、彼女には馬鹿で真面目過ぎると切って捨てられるのかもしれない。
 しかしどうしたってこれが私の選んだ結論で、その時選べた最善策で、その後、慕う先輩から身を引こうと決めた際もこれは貫き続ける想いとなる。

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25℃より熱い夢

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03

 他人に全力でしがみついたのはいつ以来だったか。感情のままに声を上げたのはいつ以来だったか。
 寝起きの喉がひりつくのは暑さの所為であって欲しいと切に思う。
 私は今夜も夢を見た。

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