03
私の先輩が帰って来ない。
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「お邪魔しまーす。うわあ、相変わらず酷いですね。お部屋が変わってもぐっちゃぐちゃですね」
私こと神原駿河が寝起きしている部屋に足を踏み入れて早々、彼はそんな風に自分の口元を覆った。真っ黒い手袋で包まれた、己の掌で。
「面積がコンパクトになった分、悪化してませんか? 地獄の釜の蓋でも開けたのかと思いましたよ」
彼こと忍野扇くんの指摘は中々言い得て妙だったが、その比喩は私ではなく彼にこそ相応しいのではないか、なんてやや不埒なことを思う。あの人は今頃どんな地獄を見ているのやら。
阿良々木先輩が失踪して、なんと十日が経とうとしている。そろそろ大学の単位を落とさないか、本気で心配になってくる頃だ――と、それはさて置いて。私の胸中に、心配事がもう一つ。 …