「なあ、あんずさん、カッターを貸してくれないかあ?」
いきなりの不躾なお願いを前にあんずは咄嗟に眉根を寄せたが、しかし素直に自分の事務机からカッターナイフを取り出した。チキチキと刃を鳴らし、刃こぼれがないことを確認してから手渡してくる様を見て、
(丁寧な子だなあ)
と、斑は心中で感心の声を漏らした。 …
奴隷以上シッター未満
成
贅とどん底
鶏卵の回想
Reader
その日は朝から頭が痛かった。
重い瞼を擦りながらカーテンを開けてみたが、窓の外が霧がかってどんよりした空模様だったって訳でも、俺の昨晩の良いとは言えない素行により質の悪い風邪を貰って来たような覚えも、ない。しかし、頭が痛む。正直ずっと毛布に包まっていたかったが、既にシャワーの音が小さく聞こえてくることに気が付かない俺ではなかったので、欠伸を噛み殺しながら寝床から抜け出した。顔を洗って、適当に自分の男ぶりを確認し、そのままだと額に垂れてくる前髪をゴムで括る。それにしても頭が重い。なんででしょうね――っと、朝食の準備の為にキッチンに立ちながら、スマートフォンで適当なニュースのチャンネルを流していたら、得心がいった。
「本日四月三十日は、彼のグロンダーズの会戦より■■年が経過し――」 …