S&C

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 あまり馴染みのない顔の女子生徒を横目で見送ってから、私は神原の耳に顔を寄せた。
「あれ、ちょうだい」
「あれ?」
「生理」
「ああ」

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本日は急病につき

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 私は真面目なバスケットボールプレイヤーではないので、放課後の部活動を黙って抜け出すことにさしたる罪悪感は湧いてこなかった。せめて顧問に一言伝えるのが礼儀だろうという声が聞こえてきそうだが、そんな律儀さや誠実さは社会に出てから嫌でも強要されるのだから、それはその時になってから考えれば良い。なんて、思考を巡らせてしまう私。本当に罪悪感をこれっぽちも感じていないのだとしたら、そんな心配はしない筈だろうと悪態をつく。厄介だね、体育会系気質って。

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Vampirism

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「おはよう、阿良々木先輩!」
 と、元気良く僕を呼ぶ声が聞こえたと同時に、視界が真っ暗になった。
 瞼に感じる布地の柔らかな感触の中に、ともすれば肌を傷つけそうな、固い芯のような手ごたえを感じる。手ごたえとは言っても、無論、それらの刺激は全て顔面で受け取った訳だが。
 僕は動じることなく、背後から僕の視界を奪った相手――神原駿河に問い掛ける。
「……朝一番にお前は何をしている?」
「阿良々木先輩はどっちが良いと思う?」
「質問に質問で返すな。まずは僕の質問に答えろ」
「私の質問がもう答えのようなものなのだが」
 冷静な尋問が功を奏したのか、神原はあっさりと僕を解放した。

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するがフレンド

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 神原駿河と付き合っていたら、僕の高校生活最後の一年は、果たしてどうなっていただろう。
 なんて、恋人がいながら別の異性との付き合いについて考えるという、倫理観的に許される筈がないことを、僕はついつい考えてしまう。
 否、考えてしまうのではない。
 考えてしまうことがあった、だ。
 過去形である。
 つまり、今は考えない。
 考えても仕方がない。
 この仮定の話は考えても無駄な話、言わば蛇足の話であることは確かである。しかし、ここは蛇足の話だということは承知で、敢えて思い返してみたいのだ。

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口唇欲求にそれ以上はない

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 教室に並んだ席を埋めていたのは、私をカウントして三人だった。
 自分の席でつらつらとうたた寝をしていた私と、書きかけの進路希望調査を机に広げている神原駿河と、もう一人。
 あの後輩は、どうして三年生の教室を覘くのが好きなのだろう。まだ完全に覚醒していない寝ぼけた頭で考えたことは一番がそれで、次は神原のペンを握る手が止まっているな、ということだった。悪影響しかない。
「口唇欲求ってご存知ですか?」
「それは、あれだろう? 生まれて間もない頃、口を通して受ける愛情が満たされていないと、大人になってから煙草を好んだり、爪を噛む癖があったり、ガムをよく噛んだりする時がある……みたいな」

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