それだけ

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 うちの学校の体育倉庫はどうして内側から鍵が掛かるようになっているのだろう。彼女は私を、体育用具やバスケットボールの匂いで満ちた狭い空間に入れてから、重い扉をきっちりと施錠した。そんなことをせずとも誰も来ないだろう、と経験則で私は思うのだが、それは彼女の意識の与り知らぬ事象である可能性も否めなかったので、言わないでおく。

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(in) directry

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「正直、もうどっちでも良いんじゃない?」

 と、やや冷たい視線と一緒に申し渡された沼地の言葉は、私にとってはどうにも喉に突っかかるものだった。

「どうせちゅーしちゃえば分からなくなるんだし」

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八十八夜の別れ霜

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「きっと私のことなんて忘れちゃうよ。忘れてしまって構わないんだ。精々もって一週間か、一ヶ月か――ほら、人の噂も七十五日って言うだろう? もっとも、『悪魔様』が七十五日も存在を覚えていられちゃあ、それは失敗の類なんだけれど――ワンシーズンも経てば、きみの考えも変わる筈さ。おっと、四十九日なんて言うなよ? それじゃあまるで私が死んだ人間みたいじゃないか」

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S&C

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 あまり馴染みのない顔の女子生徒を横目で見送ってから、私は神原の耳に顔を寄せた。
「あれ、ちょうだい」
「あれ?」
「生理」
「ああ」

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