月に叢雲花に風

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「沼地先輩、今日はどうせお暇でしょうから、僕の話を聞いていきませんか?」
 と、なんとなく失礼な物言いで彼は私に話しかけてきた。
「私が暇だと決めつけられる謂れはきみにないけど……何?」
「いえいえ。何にも知らない僕でも、今日の沼地先輩が時間を持て余していることくらいは容易に想像が尽きます。まあ、そのことと関係なくはないなんですけども」
「…………」

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花酔い

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 ――あれだ。お前も知っている、臥煙の忘れ形見。あれは病気だ。
 なんて、いつだったか、どこかの詐欺師が言っていた。
 俺の知ってる奴が、同じ病気を患っていたのを覚えてる――いや、これは嘘だけどな。
 私がその言葉を半信半疑で聞いたことはまだ記憶に新しい。
 疑いの気持ちを捨てたのは本人と再会を果たした後だった。
 彼女の口からずるり、と飛び出して来たのは見事な生花。
 数年に渡って他人の不幸と他人の悪魔を見てきたこの沼地蠟花の目にも、それは中々に衝撃的な光景だった。

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失恋専用救急箱

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「まあ、そんな気はしていたんだけどな」
 やけにフラットな口調でぼやく神原の表情は、その声のトーンと同じで抑揚が感じられない。本当になんでもないことのように私に事後報告をしている。他の奴が見れば、その様がかえって痛々しく感じたりするものなのだろうか。私の立場でそんな感情を求められても困るけど。なんて、それは少々おかしいか。自分の立場なんて私自身も分かっていないから。

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