泣かせた Reader 言葉を飲み込んだタイミングで、視界が歪んだ。不随意的に瞳から涙が落ちる。いや、ちょっと待て。ここで泣くのは先輩として格好悪過ぎる……という虚栄心も、弾みで一緒に流れてしまったと思われる。 「え、ちょっと待ってくださいよ。……はあ。僕の前で泣き出す駿河先輩とか、解釈違いなんですけど」 … 1
微妙とでも言っておけ Reader 最近よくつるんでるみたいだけど、きみと神原って仲良いのか? ◇ 「――といった感じに、もの言いたげな顔の阿良々木先輩に訊かれたんですけど、駿河先輩的にはどう思います?」 「……微妙?」 「ですよねー」 … 1
好きなだけ Reader すん、と耳元で音が鳴った。 首筋にくっつけられた相手の鼻先が、空気を取り入れた音だった。触覚に欠ける私が辛うじて拾ったもやもやした感覚の中に、何か別のものが交じる。そわそわとして、落ち着かない。この気持ちは、多分、恥ずかしいだ。 「……近い」 … 1
はじまりの文字 Reader 「字を教えてくれないか」 ほんのちょっぴり恥ずかしそうな面持ちで、りんさんは僕に声を掛けてきた。 出会ってからすぐの、警戒されていたが故の厳しい一面は、次第に鳴りを潜めてきてはいるものの、僕は未だにりんさんと話すのは少し緊張してしまう。例えるなら、そうですね――胸の辺りがどくん、とする時がある。そんな気持ちを抑えながら、僕は応じます。 … 0