手帳

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「阿良々木先輩は、随分と分厚い手帳を使うのだな」
 と、僕の手元を覗き込みながら、神原は言った。
 年の瀬が迫った時期の、大型書店の文房具コーナーでの指摘だった。

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泣かせた

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 言葉を飲み込んだタイミングで、視界が歪んだ。不随意的に瞳から涙が落ちる。いや、ちょっと待て。ここで泣くのは先輩として格好悪過ぎる……という虚栄心も、弾みで一緒に流れてしまったと思われる。
「え、ちょっと待ってくださいよ。……はあ。僕の前で泣き出す駿河先輩とか、解釈違いなんですけど」

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微妙とでも言っておけ

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 最近よくつるんでるみたいだけど、きみと神原って仲良いのか?

「――といった感じに、もの言いたげな顔の阿良々木先輩に訊かれたんですけど、駿河先輩的にはどう思います?」
「……微妙?」
「ですよねー」

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好きなだけ

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 すん、と耳元で音が鳴った。
 首筋にくっつけられた相手の鼻先が、空気を取り入れた音だった。触覚に欠ける私が辛うじて拾ったもやもやした感覚の中に、何か別のものが交じる。そわそわとして、落ち着かない。この気持ちは、多分、恥ずかしいだ。
「……近い」

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はじまりの文字

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「字を教えてくれないか」
 ほんのちょっぴり恥ずかしそうな面持ちで、りんさんは僕に声を掛けてきた。
 出会ってからすぐの、警戒されていたが故の厳しい一面は、次第に鳴りを潜めてきてはいるものの、僕は未だにりんさんと話すのは少し緊張してしまう。例えるなら、そうですね――胸の辺りがどくん、とする時がある。そんな気持ちを抑えながら、僕は応じます。

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