微妙とでも言っておけ

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 最近よくつるんでるみたいだけど、きみと神原って仲良いのか?

「――といった感じに、もの言いたげな顔の阿良々木先輩に訊かれたんですけど、駿河先輩的にはどう思います?」
「……微妙?」
「ですよねー」
 投げ掛けられた問いに対し、まず最初に頭に浮かんだ回答は、私達の共通認識だったようだ。
 微妙。きわどくてどちらとも言い切れない様。かつ、その多くの場合は否定的な意味を孕んでいる割に、回答に便利な二文字熟語。
 しかし、深く考えず口から出したその単語は、忍野扇と神原駿河の関係を指しているというより、その問題についてを考えることになった前提条件――つまり、誤解を恐れずに言えば、阿良々木先輩に向けられていたような気もした。
「もの言いたげな顔って?」
「配分でいうと不安六割、羨望二割、興味本位一割、といったところでしょうかね、あれは。阿良々木先輩に一等近い存在の僕が心情を読み込んで差し上げると、『最近やけに仲良いけれど、ぶっちゃけ、付き合ってるの?』が本当に訊きたいことだったのではないでしょうか?」
「それは流石に読み込み過ぎじゃないか……?」
 先輩のナイーブな部分を本人のいないところで大公開されても。扇くんには優しく目を瞑ってあげるという気持ちはないのだろうか。
「ああ。僕、そういうの無理です」
 ざっくりと。諦めてくれとばかりに扇くんは言い切った。
 無理なのか……。私としてはもう少し努力して欲しいものだけれど、それも勝手な話か。優秀な読者が、作家の思惑通りにものを思ってくれるとは限らないってことかな。
 そしてこれは完全に余談だけど、阿良々木先輩がそういう質問をする相手に私ではなく、扇くんを選んでいるという点が、なんとも面白くないというか、それこそ『微妙』と言いたいところではある。
「あと、ちゃんと否定してくれたよな? 付き合ってないから」
「あー……やっぱりそうなんですか」
「本気で落ち込むな。というか、さっきの。残りの一割は虚言だよな?」
「あれ? バレてました?」
 バレてなかった。
 カマ掛けしたのが上手くいっただけだ――とは勿論言わないが。言わなかったところで、この子には読めてしまうのだろうと思う。いつも深読みし過ぎだろう、とも思う。
「はっはー。流石は駿河先輩。確かに確かに。一部に僕の脚色を入れたことは認めましょう。でも、それも駿河先輩の心を読み込みたいが故の犯行なので、許してください」
「小賢しい告白の仕方をするな」
「正確には『最近仲が良いけれど、僕より仲良くなっちゃったの?』みたいなニュアンスでしたよ」
「それはそれでなんというか……友達慣れをしていない人の悩み方だな」
「うわあ、残酷な指摘だ。まあ、あの人も意外なところで執着心が強いところもあるのは否めませんがね。執着心というか、独占欲というか」
「独占欲? あの人に限って、そんなのあるかな?」
 私じゃあるまいし、と言いかけてまた口を噤む。
「はい。僕の駿河先輩を勝手に捕まえておきながら、『神原のことを一番理解しているのは僕』みたいな顔しやがってるのはどうかと思いますけど」
「そんな顔をしやがっているのは他ならぬきみの方だ。なんでもかんでも『阿良々木先輩が言っていた』で私に大目に見て貰えると思うな」
 なんなら三人の中で一番強欲なんじゃないか。

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