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 やっとの思いで全部入れた。いやもう、マジで千切れるかと思っちゃったぜ。
 互いの手指を割るようにして握った手が熱い。薄い膜越しに感じる体温と圧迫感は僕の快楽中枢を確実に刺激してくる――だけど、これで合っているのかどうか。それは僕も神原も知らない。童貞喪失と処女喪失のタイミングを同じにしている以上、不安はどうしたって拭いきれなかった。それは仕方がない。つい数分前まで、僕達はゴムの付け方すら分からなかったのだから。
「や、ったな、あららぎせんぱい……ついに、ついに私達は乗り越えたぞ……!」
 神原は神原で、なんだか場にそぐわない喜び方をしているし。そりゃあ確かに、相手の声には色気があったのだけれど、もっとこう、なんというか……。
 僕は思わず、神原の胸元に額を付ける形でへたり込んでしまった。いや、初めてに大層な夢を思い描いていた訳じゃあないけどさあ。
「ん。どうした阿良々木先輩。折角上手くいっていたのに、どうして元気を失くしてしまうんだ」
「お前がうるさいからだよ……」
 腰を退かせようとすると、萎縮した自分のペニスから避妊具が外れ落ちた。

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Vampirism

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09

 据え膳食わぬはなんとやら。そんな恥ずかしい言い訳が頭に浮かぶ明け方だった。
 いつの間に僕の布団に潜り込んだのだろう。目が覚めると、神原駿河(着衣。珍しい)の寝顔が、すぐ隣にあった。
 ……うーむ。
 まるでこちらがパーソナルスペースを犯された体で語ったが、ここは神原邸の一室で、僕が寝ていた布団は神原家からお借りしたものだから、知らないうちに彼女が紛れ込んでいてもここは大きな心で見るべきだろうか。

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Vampirism

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08

「これはこれは阿良々木先輩、ご機嫌如何ですか? お一人で過ごされているお昼休み、そろそろお腹が一杯で眠くなっちゃう頃合いですか?」
 藪から棒に、僕の友達の少なさを嘆くような言い草を交えながら、そんな質問をくべてきそうな知人を、僕は一人しか思い付かない。
 弁当箱を片付け終えたばかりの僕の机に影を落としたのは、予想に違わず、忍野扇ちゃんだった。
 今日の彼女から、僕はどんな答えを期待されているのか。なんとなく察しがつかない訳じゃあなかったけれど、あえて自分から核心に触れるのは止しておこうとは思ったのだった。

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もしも、もしも、もしもの話

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04

「阿良々木先輩を抱かせて欲しい」
 と、自室の畳の上に三つ指付いて懇願する(それが出来るようになったのも、たった半月でまたも混沌と化していたこの空間を、僕が遮二無二清掃活動を行った末、なんとか床を掘り起こすことに成功した為であることを忘れないで欲しい)神原駿河を目の前にして、僕はどんな顔をしていたのだろうか。きっと締まりのない顔をしていたに違いない。

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