スローモーション

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「寝る前に辺りを一回りしておこう」
 とのことで、僕とりんさんは暗く濁った色の空の下を歩いていた。
 幸い、その日は赤霧も少なくて、葉をつけたミドリさんの幹が、遠くで静かに光っている夜で。だから、ちょっと気が抜けていたというか。僕が思ったことをふと、そのまま口に出してしまったのがきっかけだった。

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もしも、もしも、もしもの話

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03

 待ち合わせ場所に走って来る姿を見ることが出来るのではないか。
 その期待が外れなかった日は未だにないが、戦場ヶ原先輩との待ち合わせの際、私は絶対相手より先に指定された場所で待っているようにしている。当の先輩はいつも時間ぴったりにやって来る。無論、走ってではなく、歩いてだ。美しい走り姿を久しく見ていないことにどこか寂しさを覚えることもあるが、目上の人を急かすのもどうかと思うので、私が密かに抱いている淡い期待を伝える日はきっと永遠に来ないだろう。

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もしも、もしも、もしもの話

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02

「神原って、もしかして声上げる方なのか?」
「え」
 口から間の抜けた声が出る。こちらを覗き込んでくる阿良々木先輩が思いの外、真剣な顔をしていたからだ。
 このタイミングで声、と言えば一つしかないだろう。喘ぎ声だ。

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もしも、もしも、もしもの話

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01

 携帯電話のボタンをちょっとばかしプッシュするだけで、神原駿河は簡単に現れる。
 いつでも。どんな時でも。
 誤解を招きそうな言い方になるが、それが彼女の僕に対する忠誠心とやらの表れだとしたら些か不安を覚えるし、はたまた愛情とやらの表れだとしたらそれはそれで負い目を感じてしまうのが正直な所だった。
 それでも僕は神原駿河に甘えてしまう。先輩なのに、後輩に甘えてしまう。恋人関係が成立すると先輩後輩関係は薄れてしまうのではないかと勝手に思っていたのだが、どうやらそんなことはないらしい。
 三十分後、ミスタードーナツで。

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