うちのナースはおさわり禁止2

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04

 沼地蠟花のことを何も知らない。
 生まれも育ちも。将来の展望も。月に二度は私に会いに来て、安くはない酒と接客に金を落としていくけれど、その金はどこから回ってくるのかも。病院に人一倍苦手意識を持っている癖に、心理カウンセラーを志すようになった心境も――その病院嫌いの理由だって、全てを開示する義務などない筈なのに、沼地は私に話してくれた。しかし、それも私にとっては理解しかねるものだった訳で。
 とどのつまり、私は彼女のことを何も分かっていないのだろう。
 私だって、ただ黙って相手の隣に座っている訳ではない。実は喋り上手な彼女の言葉を――素直に受け取るには巧妙に混ぜられた皮肉をかわす必要があるし、毎度毒見でもするような心持ちにさせられる言葉の数々を――なるべく受け止めようとはしている。
 それでも私は、彼女について何も知らないと言えよう。相手の話を聞けないことは、少なからず自分が不道徳を働いているような気持ちも芽生えるが、しかし。

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うちのナースはおさわり禁止2

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03

 沼地蠟花は一人暮らしをしていた。
 いや、戸籍謄本上は、今もしている。
 ならばどうして過去形で表現したかと言えば、ミクロ的に考えた場合に、つまりはここ数日の生活を振り返った場合に、現在進行形で表すのはどうかと思ったのだ。

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天国に割と近い部屋

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01

 阿良々木暦は生きることが好きだけれど、希死念慮を抱くことは決して珍しいことではなくて、それは十八歳になる直前の春休み然り、中学一年生の夏休み明け然り、その他諸々、その都度具体的なシチュエーションは覚えていなくとも、何度となく息苦しさを感じてきたのは真実なのだった。

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