死んでいくロマンチスト

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01

 下駄箱には白い封筒があった。
「おやおや、ラブレターですか」
「まだそうと決まった訳じゃ……」
 と、(いつからそこにいたのか)後ろからつつかれた冷やかしを冷静に否定しつつも、経験則から言って十中八九そうだろうという予感はあった。そして、中身を改めてもその予想は外していなかった。

2

ハッピーバースデーを、あなたに

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「お誕生日おめでとうございます」
 と、真っ黒な後輩は真っ黒な瞳に薄い微笑みらしきものを浮かべて、恭しくのたまったのだった。ついでに今日の彼の私服も真っ黒いそれだった。休みの日にわざわざ家にまで訪れて、人を祝おうとしてくれる気持ちはありがたいのだが。
「……扇くん。私の誕生日、今日じゃないぞ」
「ええ、ええ、分かっておりますよ。僕がお慕いする駿河先輩の生まれた日を間違える筈がないじゃないですか。全く、駿河先輩はもう少し僕のことを理解しておいてくださいよ」
「いや、きみが私のことを理解してないから先輩としてツッコミを入れておいた訳だが……なんだその上から目線の発言は。きみは私を本当に慕っているのか?」
「勿論です。来週ですよね、お誕生日」
「ああ、まあ、……そうだけど」

2

月は空にメダルのように

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「おやおや、駿河先輩。これからご退勤ですか?」
 音もなく進む自転車で横付けしてきたのは、見知った顔の後輩の男の子で。全く、きみは嫌なタイミングで遭遇するなと、私は心中で苦笑を噛み潰す。
 顔を見ずとも誰かと分かる――のは、この場合はあまり嬉しくないな。
 現在時刻。日付が変わるまでおよそ一時間といったところか。
「はい、現在午後十一時ジャスト。月が綺麗な夜更けですが、女性がお一人で出歩くには相応しくないお時間です。仕事熱心もよろしいですが、夜更かしはお身体に障りますよ」
「そういうきみは何をしていたんだ? わざわざ私に告白する為に話しかけてきたのか? こんな夜更けに」
 制服のままだし。補導とかされないのだろうか。……されないんだろうなあ。
 されたとしても、この子の場合なんだかんだとおまわりさんまで煙に巻いてしまいそうだ。

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