死んでいくロマンチスト

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01

 下駄箱には白い封筒があった。
「おやおや、ラブレターですか」
「まだそうと決まった訳じゃ……」
 と、(いつからそこにいたのか)後ろからつつかれた冷やかしを冷静に否定しつつも、経験則から言って十中八九そうだろうという予感はあった。そして、中身を改めてもその予想は外していなかった。
「あーあ。見損ないましたよ。僕という心の婚約者がありながら」
「心の中にも外にも、私に婚約者はいないよ」
「ならばフリーの駿河先輩に訊きますけれど、その申し出は受けるんですか?」
「受けない」
「ですかー」
 一刀両断の私の返事に、扇くんはさして興味が湧かないように見えた。
「いやいや、僕は駿河先輩のそういうスタンスも好きですよ。好きでもない相手には、期待を持たせるだけ残酷ですからね」
 否、そう思ったのは勘違いで、単に私以上に感覚がドライだっただけだったのかもしれない。
「じゃあ、それ、捨てるんですか?」
「ううん」
「燃やすんですか?」
「なんでそうなる。自慢じゃないけどな、扇くん。私が後輩から貰った恋文の全てに火を点けたら、ちょっとした放火騒ぎになると思うぞ」
「謙遜したってそれは自慢ですよ。ははあ、成程。それで幻滅されて諦めて貰おうって腹づもりですか」
 斜め上の解釈が飛んできた。
「申し訳ないけれど、手紙の受領拒否にそこまで身を切れないよ」
 対して私は面白くもなんともない返ししか出来なかった。全く、洒落たツッコミなんて気まぐれにでもするもんじゃないな。
「じゃあどうするんです? まさか人目に付かないところに埋めようって訳じゃないですよね」
「どうして手紙を処分する発想が死体遺棄のそれなんだよ。不謹慎だろうが」
 ぞんざいに扱おうとする手袋越しの指から逃すように、丁寧に文字が並んだ紙束を再度摘まみ上げる。見かけ以上に重かった。
「返すんだよ、本人に」
「……はあ」
 扇くんがきょとん、とした顔でこちらを見た。はて、そんなに彼にとって意外なことを私は言っただろうか。
「またまたー、そんなデリカシーのないことを仰って。そう悪ぶらずとも、駿河先輩は本当は心が温かい人だということを、僕はちゃあんと存じ上げておりますよ」
「いや、別に私は常に悪ぶってるようなキャラじゃないだろう……」
「想いを込めた手紙をにべなく突き返す以上に悪いこともそうそうないかと思いますけどね」
「う……」
 言葉が刺さる。まるで手紙の主の気持ちを代弁しているかのように。
 勿論、そんな感覚は私の罪悪感に由来する思い過ごしで、気持ちを置き換えることからして相手にとっては失礼に当たるのだろうけれど、目の前の彼は私に都合の悪いところだけは指摘してくれないようだった。
「……きみも私の対応は冷たいと思うか?」
「いえ、別になんとも思いません。普通ですよ。世の中みんな普通に冷たいです」
「今、私のことを普通って言ったか?」
「本当に優しいのはあの人くらいのものです」
「そうだな」

 

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