『どちらかが相手を拘束しないと出られない部屋』

Reader


神扇くんは『どちらかが相手を拘束しないと出られない部屋』に入ってしまいました。
40分以内に実行してください。

「いやはや、簡単な条件で良かったですね。さあ、さっさと駿河先輩を縛り上げて退室しましょう」
「いやちょっと待て。どうして私が縛られる側だと決まっているんだ」
「でも、緊縛されるのお好きでしょう?」
「さも当然の様に言われても……。少なくともきみに縛られるのは嫌だよ。なんか怖いよ」
「あなたのお名前だってあなたの嗜好を物語っているじゃないですか。ほら、駿河問いの駿河でしょう?」
「私の名前の由来を変態っぽく仕立て上げるのは止めろ。大体、私の名前は私が付けたんじゃないし」
「じゃあお母様が変態だったんですかね」
「人の母親のことを変態って言うな」

「何を警戒しているんです? 僕は紳士ですから、駿河先輩を縛り上げたとて変なことは致しません」
「きみが紳士かどうかはさておき、そもそも紳士は年上の女性を縛り上げないと思うのだが……」
「紳士ですから、身体の自由を奪われた駿河先輩を前にしても欲情しないように努めますから」
「言葉にされると恐ろしさが増すし、努めますからってことは欲情される可能性があるってことだよな?」
「紳士ですから、忌憚ない意見を敢えて言わせて頂きますけど、どうしてあなたはこういう時ばかり自意識過剰なんですか」
「台詞の頭に『紳士ですから』って付ければなんでも許されると思うな」
「あ、そっか。『いやらしい気持ちにならない方がかえって失礼なのでは?』でしたっけ?」
「その持論をきみの前で言った覚えは無いのだが……。どうして知ってるんだ?」
「さあ? 僕は何にも知りません。あなたが知っているんです。でも、まあ、そうですね。ここは年下として、尊敬する先輩には倣うべきですかね」
「尊敬しているなら少しは私を慮った発言をしてくれ……」
「はい。訂正します。僕は紳士ですから、全くいやらしい気持ちにならないのも駿河先輩に対して失礼だと思うので、なるべく欲情するように努めます」
「努めなくて良い! そこは慮ってくれなくて良い!」

「まあとにかく、後輩を縛るのも心が痛いし。私が拘束されるので良いから」
「ははあ。心の痛みより身体の痛みを選びますか」
「ノーコメントだ。ほら。早く縛って、早く出て、早く帰ろう」
「僕に帰る場所があると思うんですか?」
「重っ! 何故ここでいきなり重い話をし始めようとするんだ!?」
「大体、この部屋から出られたところで、僕は駿河先輩とは別の場所に帰らなきゃいけないんでしょう? だったら脱出へ向けてのモチベーションなんて上がりませんよ。最低値です」
「どうしてここにきて精神論が始まる。ちょっとで良いからやる気出してくれ」
「駿河先輩と同じ家に帰っても良いというのであれば、無論、話は別です」
「さり気なくプロポーズ挟むの止めて」
「それに、敬愛してやまない駿河先輩を縛り上げるだなんて、そんな非情なこと僕にはとても出来ません」
「さっきは前向きだったじゃないか!」
「駿河先輩が縛られるのがお好きならば、の話です。好きな人の嫌がることはしたくないんですよ」
「正論過ぎて返す言葉がないが……きみ、いつも私に嫌なことしまくりだからな?」
「愛情の裏返しです」
「もうきみに懐かれることに関しては諦めるから。せめて裏返さないで」
「お望みとあれば。では――」

 僕は駿河先輩が大好きなので、あなたを縛り上げることは出来ませんし、ここで駿河先輩と一生添い遂げることになっても僕としては全く困りません。なので、どうかこの僕の一生をあなたに捧げさせてください。

「…………」
「如何ですか?」
「…………い、嫌だ。きみと一生この場で二人きりなんて御免だ」
「あちゃー、ふられてしまいましたか」
「そういう言い方するなよ。悪いことをしたような気になってくるから」
「でももうひと押しすればいけるんじゃないかなーって思うんだよなー。コンティニューは可能ですかね?」
「人をそんなゲーム感覚で落とそうとするな。ノーコンティニューだよ」
「落ちそうになったんですか?」
「……だからっ、本当に落ちて困るのはきみだろう!?」
「まあ、返事がどうあれ、まもなく四十分です」
「えっ」
「このままでは我々が望む望まないにかかわらず、一生添い遂げなければならなくなりそうです」
「っ!?」
「一生この部屋で二人きりになるのなら、求婚、受けといた方がかえって平和だったんじゃないですか? コンティニューします?」
「ふられたからって脅しにかかるな。……正直、さっきの台詞を聞いてちょっと考えてみようかなって気持ちになってたけれど、プロポーズはそんな理由で受けたくないから断る」
「うわー、傷つくなー」
「謝るから! とにかく話の続きは部屋を出てからだ! 頼むからとりあえず縛ってくれ!」
「『お願いします』は?」
「えっ」
「え?」
「…………お、お願いします」
「頭下げて?」
「……っ」
「頭を下げてお願いされては仕方ありませんね。あまり気は進みませんが駿河先輩を縛り上げることに致しましょう」
「何故かな。縛って貰えることになって何よりだが、物凄く理不尽さを感じる」

「いやあ、ギリギリになっちゃいましたが、なんとか出られて良かったですね」
「ああ……。結局、良かったって思ってるんじゃないか」
「はっはー。駿河先輩の拘束姿、僕が言うとなんだか洒落の様になってしまいますが中々に煽情的でしたよ」
「……出られたのは良かったが、代わりに何か大事なものを失った気がする」
「おやおや。これは僕が駿河先輩の肉体を縛ることで、図らずも駿河先輩の心まで縛ってしまったようですね?」
「『ようですね?』じゃないから。やっぱりきみを縛り上げて部屋に置いて来れば良かったと思っているところだから」
「でも、束縛されるのお好きでしょう?」
「だから、少なくともきみに縛られるのは嫌なんだってば……」

 

 

 

お題:○○をしないと出られない部屋様より

1