するがフレンド

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 神原駿河と付き合っていたら、僕の高校生活最後の一年は、果たしてどうなっていただろう。
 なんて、恋人がいながら別の異性との付き合いについて考えるという、倫理観的に許される筈がないことを、僕はついつい考えてしまう。
 否、考えてしまうのではない。
 考えてしまうことがあった、だ。
 過去形である。
 つまり、今は考えない。
 考えても仕方がない。
 この仮定の話は考えても無駄な話、言わば蛇足の話であることは確かである。しかし、ここは蛇足の話だということは承知で、敢えて思い返してみたいのだ。

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おくることばなしに

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 少しだけ、阿良々木先輩と私しか知らない話をしようと思う。
 卒業式の日、私の愛すべき先輩方は無事に(一名無事と言って良いか分からない人もいたことを述べておくが)卒業証書を受け取った。
 卒業ムードが漂う中でも阿良々木先輩はやはり阿良々木先輩で、高校生活最後の日もやはり何やらいらないかもしれないお節介を焼いて最高の悪目立ちをしたらしいが、学年が一つ下の私はそんなことを知る由も無く、在校生として式の撤去作業に追われていた。

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Vampirism

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02

「正直、恥ずかしい話をするんだけどな」
 さりげなく話を切り出したつもりだった。たださりげなさ過ぎたのか、神原駿河から返ってきた返事の勢いは強過ぎた。
「ん? なんだ? 今度は何をしでかしたのだ? 恥ずかしいことか? 阿良々木先輩以上に恥ずかしい存在がこの世にあるのか?」
「僕は恥ずかしいことは何もしてないし、好きな人の影響受け過ぎで毒舌になってるよ。神原くん」
 自分のキャラである甘言褒舌を諦めないで欲しい。あと僕、お前に非難されるとすげえショックだから。

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Vampirism

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01

 気付くのは、その日一日を終えようとしているタイミングである時が多い気がする。当たり前と言えば当たり前のことだ。吸血鬼は夜に活動するものだから。
 口腔内に違和感を覚えて自分の舌を八重歯に当てると、予想に違わぬ鋭い感触。そうなるとすぐにでも鏡を覗きたくなって、僕は洗面台の前に立つ。
 そろそろか、と鏡の向こうで目いっぱい口を広げた間抜けな顔を披露している自分に向かって問い掛ける。
 口の中の尖った八重歯が僕の代わりに返事をした。
 認めたくはないが確かな返事のようだった。後から愛用の手帳(月齢カレンダー付き)で確認しても、満月が近かいようだった。応じて、僕の体は変化しているらしい。
 出そうになったため息を欠伸で誤魔化した。
 人間には三つの欲があるという。睡眠欲、食欲、性欲――つまりは生きていく上の三大欲求。
 勿論、僕にも相応にある。しかし、それとは別の、もうひとつの厄介な欲が顔を出しつつあるのが飲み込んだため息の原因だ。
 吸血鬼もどきである僕には、吸血衝動がある。

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僕の神原がボブカットになった

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03

 私の先輩が帰って来ない。

「お邪魔しまーす。うわあ、相変わらず酷いですね。お部屋が変わってもぐっちゃぐちゃですね」
 私こと神原駿河が寝起きしている部屋に足を踏み入れて早々、彼はそんな風に自分の口元を覆った。真っ黒い手袋で包まれた、己の掌で。
「面積がコンパクトになった分、悪化してませんか? 地獄の釜の蓋でも開けたのかと思いましたよ」
 彼こと忍野扇くんの指摘は中々言い得て妙だったが、その比喩は私ではなく彼にこそ相応しいのではないか、なんてやや不埒なことを思う。あの人は今頃どんな地獄を見ているのやら。
 阿良々木先輩が失踪して、なんと十日が経とうとしている。そろそろ大学の単位を落とさないか、本気で心配になってくる頃だ――と、それはさて置いて。私の胸中に、心配事がもう一つ。

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