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 やっとの思いで全部入れた。いやもう、マジで千切れるかと思っちゃったぜ。
 互いの手指を割るようにして握った手が熱い。薄い膜越しに感じる体温と圧迫感は僕の快楽中枢を確実に刺激してくる――だけど、これで合っているのかどうか。それは僕も神原も知らない。童貞喪失と処女喪失のタイミングを同じにしている以上、不安はどうしたって拭いきれなかった。それは仕方がない。つい数分前まで、僕達はゴムの付け方すら分からなかったのだから。
「や、ったな、あららぎせんぱい……ついに、ついに私達は乗り越えたぞ……!」
 神原は神原で、なんだか場にそぐわない喜び方をしているし。そりゃあ確かに、相手の声には色気があったのだけれど、もっとこう、なんというか……。
 僕は思わず、神原の胸元に額を付ける形でへたり込んでしまった。いや、初めてに大層な夢を思い描いていた訳じゃあないけどさあ。
「ん。どうした阿良々木先輩。折角上手くいっていたのに、どうして元気を失くしてしまうんだ」
「お前がうるさいからだよ……」
 腰を退かせようとすると、萎縮した自分のペニスから避妊具が外れ落ちた。

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「人気の公演のチケットが手に入ったので、駿河先輩、一緒に行きません?」
「公演? なんのだ?」
「おや、らしくなく察しが悪いですねえ。公演と言ったらひとつしかないじゃないですか」
「ひとつしかない訳ないし、その説明だけで全てを察せられる程、私ときみは仲良くないからな」
「またまた、そんなつれないことを言わずに。ほら、初期の駿河先輩って、阿良々木先輩相手にテレパシーとか普通に使っていたじゃないですか。あんな感じでひとつ」
「初期の駿河先輩って」
「えー。僕とは出来ないって言うんですか?」
「出来るかどうかはともかくとしてだな……きみとテレパスするくらいならディスコミュニケーションのままで良いとすら思うよ。で、なんだ? 私はどんなデートに誘われてるんだ? 分からないから口で言ってくれ」
「脱出ゲームです」

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 クリームソーダの美味しいお店がある、と神原選手に誘われたので、学校の帰り道、私は彼女にのこのことついて行った。いくら直江津高校が進学校とはいえ、寄り道のひとつもしないようでは女子高生として不健全というものだ。
「だけど、どうしてクリームソーダなんだよ。今のご時世ならタピって帰るのが一般的じゃない?」
「それは昨日、別の友達と行ったから良いんだよ」
 と、神原はこちらに目もくれず、つんとした表情で私の前を歩いている。
 この田舎町でどこにそんな店があるのか、不勉強な私は知らなかったけれど、対する神原駿河選手の交友関係の広さは流石と言おうか。私は未だ飲んだことのない流行りの味を想像しながら、彼女の背を追った。
 神原選手が足を止めたのは、煉瓦造りの年季の入った建物だった。カフェ、というより喫茶店という表現の方が似合う気がする。意味合いは同じなのだろうが、私達を出迎えた分厚い半透明な自動ドアを前にして、私はそんなことを思った。
 扉の前に立つ。隙間からエアコンの冷気がふんわりと漂って来て、するとやっと喉を潤したい気分になってきた。

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