うっかり血鬼術をくらってしまった結果、俺の尻から尻尾が生えた

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 任務に向かった記憶はある。確か一人で鬼を待っていた。現場に到着したのは昼だったので、鬼が出るまで、つまりは日が落ちるまで待っていた訳だが、あまりにも暇だったからちょっとぼんやりしてしまった。気付いた時には夜空に月が浮かんでいて、鬼の頚が目の前に落ちていて、俺は血塗れになっていた。えっなんで? ああ、これはもしや知らない間に腹でも切られて死にゆく途中なのではないかと慌てたが、身体はどこも痛んでいなかったし、浴びた血は全て目の前に転がっている鬼の返り血のようだった。一体どういう状況なのかと問い質したい気持ちはあったけど、鬼はこと切れてから時間が経っているのか、もう殆どが塵になっていたので諦めた。

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最終選別で七日ぶりに目を開けた善逸の話

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 藤襲山に足を踏み入れてすぐ、七日どころか半刻も経たないうちに死んでしまうだろう、なんて絶望と一緒に膝を抱えた俺の頭上を、鬼の爪が横切った。そこまでは覚えている。そこからを覚えていない。生まれて初めて見た鬼が恐ろし過ぎて、俺はあっけなく失神した。ああこれはもう死んだな、と確信する。

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ピロートーク

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 家の匂いというものを知らない。
 人にはそれぞれ匂いがある、と炭治郎は言った。同じ匂いの人は世に一人としていない。だけど、人の放つ感情の匂いというのは不思議と似通っているものだから、丁寧に辿るとその人が何を考えているかは分かる。そうして少し似ていて、だけどちょっとずつ違った人の匂いが集まると、それらは生活の匂いとなり、それらの差異を確認しあうことを、世間では人の営みと呼んでるのだと、炭治郎は幼い頃に理解したのだという。

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(善逸が生まれる前から棲んでる鬼が弱い訳がないんだよな……)

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 廃寺で時間を潰していた。そこは山の中に建てられた寺で、おそらくは俺が生まれるよりもずっと前には人が足繁く通っていたらしいのだけど、その山一帯が鬼の縄張りになって以来、境内へと続く道は獣道に成り果てた。ふもとの村で耳に入ってきた話をまとめるとそんな感じで、おかげでここまで登ってくるのに苦労した。

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