#リプ来たキャラに自分の私服を着せる

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「阿良々木先輩、靴紐を結んで頂けませんか?」
 平坦な口調で申し渡された忍野扇の頼み事は、どう考えても後輩女子が先輩男子にお願いして良い類のものじゃなかったけれど、どうして僕が断ることが出来なかったのかと言えば、それは彼女が学校指定のローファーではなくスニーカーを履いていたから――これが一番求められる答えに近いかもしれない。阿良々木暦という男は、知り合いの女子が自分の記憶の中と違う、どこか物珍しい恰好をしているだけで、テンションを上げてしまうような奴なのである。
「随分と勝手なイメージを持たれているようですが、阿良々木先輩。私の趣味はフィールドワークですよ。こう見えて、お外を元気に走り回るやんちゃっ子なのです。スニーカーくらい普通に履きますよ」
 大人しく両脚の爪先を揃えて立つ扇ちゃんは、上から主張と溜息を吐いた。僕が蝶結びを施している靴紐の色は漆黒で、それはイメージと違わないけれど、その細い足首はとてもじゃないがやんちゃっ子には見えない。
 ちなみに、目の前の扇ちゃんの服装はニットワンピだ(どう考えてもフィールドワークに行くような格好じゃない)。厚めの黒いタイツはいつも通りのそれだけど、ワンピースのAラインのシルエットは、制服とはまた違った印象を与えて来る。紺色の裾は絶妙な長さで、彼女の丸い膝頭を隠し切れていない。
 ん? ちょっと待てよ? この状態で真上を見上げたらどうなるんだろう?
「えい」
「いっ――痛ぇっ!?」
 蹴られた。爪先で。顔を。
 いやはや、見事な眼球ヒットだったぜ。僕だから許される暴挙と分かっているからか、全く躊躇のない蹴り上げっぷりだった。おかげで僕が最後に見えた光景は、結んだばかりの靴紐が綺麗に宙を舞った瞬間のみ。
「おっと、すみません。爪先が滑りました。決して、阿良々木先輩が軽犯罪を犯しそうになったところを止めたかった訳ではありませんよ?」
「いや、後輩の女子にかしずいてみせたんだから、ちょっとくらいご褒美が貰えても良いんじゃないかと思って」
「この場合、私が与えるべきなのはご褒美ではなくお仕置きであると判断させて頂きました」

 

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