03
日傘星雨が同じ服を着ているところを見たことがない。
なんて、それはちょっと大袈裟な表現かもしれないが、そんな空想的な一文を想起させるくらいには、この元チームメイトはファッショナブルだ。なんたって、同学年のバスケ部女子でパジャマパーティーを催した時、全員分のドレスコードを(予備を含めて)用意していたくらいなんだぜ? それこそ神原なんかはパジャマ一枚持っているかも怪しいが、何も寝巻に限った話じゃない。
休日の部活動なんか良い例だし、秋冬の季節は特に顕著だ。紺色のピーコートだった筈の上着が、次の日には鮮やかなエメラルドグリーンのダッフルコートになっていたり、かと思えば千鳥格子のストールを羽織っていたりする。
「きみの家のクローゼットはさぞや大きいんだろうね」
「えー? そんなことないって。普通よ? もしも大学に合格したら、ウォークインクローゼット付きのアパートを探さなきゃいけないな、とは思っているけれど。それでも普通だって。普通の中の、普通」
「それが普通の願望かどうかは言及しないでおくけれど……よく言うね。今シーズンだけでも、日傘が同じ防寒具を着ていた日は一度だってないよ」
「ふうん? 沼地ってそういうところ、意外とよく見てるよね。るがーなんて全く話題にしないのに」
「神原選手にとっては服なんて、着ているか、そうじゃないかしか興味ないよ。きっと」
「あはは、そうかも」
「でもさ、何か理由ってあるの?同じ服を着たくない理由とか」
「別に、そんな漫画のキャラクターみたいなことをしている覚えはないんだけど、何だろう……あまり自分を出したくない、とか?」
「? それは逆じゃないのかい?」
「んー、なんというか……ほら、服装で年齢を判断される時もあるじゃない?こういうことを言うと、沼地は誤解するかもしれないし、それに――るがーを見ていると、特にそう思うんだけどさ」
なんて軽い口調で仰々しい前置きをしてから、
「私は心のどこかで、自分のパーソナリティを簡単に分析されたくないって思っているのかもね」
成程。私が苦手そうな答えだった。