#リプ来たキャラに自分の私服を着せる

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 待ち合わせ場所はいつものコーヒーショップ。いつもの席でマグカップに口を付けていた沼地蠟花を見た瞬間、私は軽い後悔を覚えた。
 まずい。被ってしまった。
 何が、と言えば、髪型が。
 バイト上がりの月曜日。私は軽いランニングも兼ねて、待ち合わせ場所に走って来た。その時にポニーテイルを結んできたのだが、待ち合わせ場所に立っていた沼地も髪を一つに括っていたのだった。
 高校時代に復縁した彼女の私服を見るのは別に初めてではないけれど、いつ見てもなんだか怠そうな格好だな、という感想を持ってしまう。
 今日だって、深緑色のコーデュロイパンツに、ややくたびれ気味のブラウンのセーター。ゆったりとした大きな編み目もまた、もう見飽きてすらいる彼女のだるんだるんのジャージを想起させる。適当にざっくりまとめただけの髪は、せめて櫛くらい入れるべきだと思った。
 きっちり結わえた私の髪とは、そりゃあ人に与える印象は違うだろうけれど、何というか……。
 どこか気恥ずかしい思いを抱えながら、しかし踵を返す訳にもいかないので、ポーカーフェイスを意識しながら向かいの席に腰を下ろす。
「お待たせ」
「ん」
 代理出席を頼んだ講義のノートを受け取って、中身を確認する。こいつは私よりは綺麗な字を書くので、このノートは人に見せられないなと、二人分の筆跡を比べた。
「それは丁度良い。私もそろそろ止めたいと思っていたところでね。いくらきみの名前を語って講義を受けたとしても、私の学歴は中卒止まりで、別に写経をするのが好きな訳でもないし。そろそろ飽きて来たんだよね」
 方便は半分、と推察する。私が受け取ったノートのタイトル欄には『心理学』と書いてあったからだ。それとも、『悪魔様』はどんなに興味のない授業でも、まめにノートを取る癖があるのだろうか。
「じゃあ、どうしてそんなつまらないことを今まで続けてくれたんだよ」
「さあ?惚れた弱みじゃない?」
 ……それは私の台詞だ。
 心の中でだけ反論して、私はポニーテイルを解いた。

 

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