至情には未だ遠い #3

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「君はやはり、女性と過ごす方が好きなのかな」
 らしくない質問に、おや、と思った。さっぱりとした気質――が本質なのかは定かではないが、少なくとも俺はそう思っている――先生から、そんな粘ついた言葉が発されるとは今の今まで想像していなかったからだ。ただ、あまりに淡白な調子で呟かれたので、俺の貞操観念についてを問い質されている訳ではないらしい。経験上、耳にしてすぐはその言葉に身構えてしまったが、俺は俺の直感を信じて、目の前にあった先生の肩に腕を回す。
「いやいや。確かに女の子と過ごすのは嫌いじゃないです、が……その言い方だと語弊がありますね。先生だからこそ、俺はこうしてここにいるんですよ」
「そういうのはいい」

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至情には未だ遠い #2

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 この人の冴えた瞳がどうにも苦手だった。
 戻らなくて良いのか、とでも言いたげな非難の視線を向けられる。それこそ出会ったばかりの頃なんて、まるで人形か何かのように表情に乏しかった筈なのに、近頃の先生は教え子に対して随分と目でものを語るようになってきた。しかし、その意をいつでも好意的に汲んであげられるような人間じゃあないのが俺って奴だったので、こうして他人のベッドの上で胡坐を掻いたまま動かないでいる。ここに至るまでそれなりのことをしてきたので、それなりに倦怠感はあった。しかし、誤解を恐れず、そして不純ではしたない動機を探すとしたら、俺が経験してきた女の子達のそれとは違って、この部屋のシーツにはまだ清潔感が残っているような気がして、なんとなく身を起こすのが億劫になってしまっていた。

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至情には未だ遠い #1

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 愛とはなんだろうか。
 辞書の中で説明されているそれは慈しみの心だったりするし、俺にとってのそれは遊び相手に囁くものだったりする。そして、この世界で愛と呼ばれるそれは、下心なく無償で与えるものが一番美しいとされているらしい。

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 阿良々木先輩が今から家に来るというので、これは今日こそ抱いて貰えるのでは、という期待を込めながら通話終了ボタンを押した。場を盛り上げる為の手数を惜しむような私ではないので、得意ではない下着と服をしっかりと着用して彼を出迎えたのは、うららかな春の日差しが快い五月の第二日曜日のことだったのだが、神原家の玄関をくぐった彼の表情はどうしてか冴えない。後輩を抱くのにそんな心持ちではいけない。一体何があったのかと訊けば、
「妹と喧嘩をして家を追い出された」
 のだと言う。はて、どこかで聞いたような話だ。

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