天国に割と近い部屋

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 阿良々木暦は生きることが好きだけれど、希死念慮を抱くことは決して珍しいことではなくて、それは十八歳になる直前の春休み然り、中学一年生の夏休み明け然り、その他諸々、その都度具体的なシチュエーションは覚えていなくとも、何度となく息苦しさを感じてきたのは真実なのだった。

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泡沫に泳ぐ魚

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 進展がないまま一週間が経過した。
「まもなく直江津高校でもプール開きですが、駿河先輩は水着のご用意はお済みですか?」
 わざわざ昼休みに三年生の教室を訪ねて来る程、彼は私を慮ってくれているのか、はたまた面白がられているのだろうか。きっと後者なのだろうなあ、と私は今日も忍野扇くんの顔を見ながら思う。

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泡沫に泳ぐ魚

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 沼地蠟花と私の関係を、私は上手に言い表せない。
 高校三年生の四月、およそ三年ぶりに再会した私と彼女は、友達と呼べる程穏やかな間柄ではないし、好敵手と呼ぶには時間が経ち過ぎていた。
 互いが互いのライバルだともてはやされていたのは、中学時代のコートの中での話であり、今や過去の話である――否、それでは聞こえが良過ぎるか。昔の思い出はとうに過ぎたものだからこそ、何か良い感じのニュアンスで思い出されるだけなのだろう。

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