その日は朝から頭が痛かった。
重い瞼を擦りながらカーテンを開けてみたが、窓の外が霧がかってどんよりした空模様だったって訳でも、俺の昨晩の良いとは言えない素行により質の悪い風邪を貰って来たような覚えも、ない。しかし、頭が痛む。正直ずっと毛布に包まっていたかったが、既にシャワーの音が小さく聞こえてくることに気が付かない俺ではなかったので、欠伸を噛み殺しながら寝床から抜け出した。顔を洗って、適当に自分の男ぶりを確認し、そのままだと額に垂れてくる前髪をゴムで括る。それにしても頭が重い。なんででしょうね――っと、朝食の準備の為にキッチンに立ちながら、スマートフォンで適当なニュースのチャンネルを流していたら、得心がいった。
「本日四月三十日は、彼のグロンダーズの会戦より■■年が経過し――」 …
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至情には未だ遠い #6
ビターチョコレート
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最寄駅とは反対方向にある菓子屋のケーキと数字を象ったカラフルな蝋燭を引っさげた先生は、約束してきた時間をとうに過ぎた頃に俺のマンションのチャイムを鳴らした。一体どこで油を売っていたのかと思えば。今日はもう来ないのかと思った。てっきり忘れちまったのかと。せめて連絡のひとつくらい入れてくださいよ。だけど覚えていてくれて、うれしい。ひとりきりだった間、心に溜めていた文言はそれなりにあった筈なのに、望んでいなかったサプライズを前にしたら、どれもこれも口から出る前に失せてしまった。靴紐を解く背中に向かってただ嘆息する。しかし、幸か不幸か、俺の複雑な想いを乗せた溜め息は先生には届かなかったようで。
「誕生日おめでとう」
俺が何か言うより先に、静かでだけど芯のある声がシンプルに胸を突いてきた。 …