祈る

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02

 沼地と墓参りに行くのは決まって夏だった。しかし、彼女の命日が暑い日だったのかと言えば、別段そんなことはないらしく、彼女の訃報が新聞の隅に小さく載ったのはもっと、暑くも寒くもない、印象に残らない日だったのだという。雨が降っていたのかさえ覚えていない――というのを、私は人づてというか、本人づてに聞いた。
「最初は死んだことにも気付かなかったしね。どうして気付いたのかと言えば、それも大きな切っ掛けがあった訳じゃあないから、面白い話は出来そうにないな」
 と、彼女は言うし、その通りだとも思う。
 私と沼地の間にあるのは、愉快な時間ではないのだ。

 墓地からの帰り道、土砂降りに遭った。
 快晴だった筈の空模様は、いつの間にか入道雲が大きく膨らんで、いきなり泣き出したかのように雨粒が落ちてきた。
 閉まったシャッターが目立つ商店街のアーケードの下で雨宿りをしながら、
「……これじゃあ墓石を洗った意味がなかったな」
 と、沼地がぼやいたのには少し笑ってしまったが。この分だと用意した花も散ってしまうかもな、と私も午前中に費やした時間の殆どを甲斐なく思った。暗くなった空の下で深呼吸をすると、湿った空気が肺を満たす。濡れた制服のスカートを絞ると、指の隙間から水滴が落ちた。
 沈黙を薄めるかのように、水滴が地面を叩いている。思いの外雨脚が激しい。
「……お盆」
「ん?」
 前触れのない雨に閉じ込められたことを言い訳に、私は沼地に訊いてみたかったことを、この機会に訊いてみることにした。
「墓参りって、普通はお盆に合わせて行くもんじゃないのかな」
 もしくは春分の日とか秋分の日とか。所謂お彼岸の時期か。
 今日は七月の下旬。夏休みの一歩手前だ。
 地域差はあるとはいえ、この近隣のお盆期間は平均的な八月中旬の筈で、墓参りには時期尚早だ。毎年おばあちゃんが家で準備をするから、私でも覚えている。
 だから、どうしてなんでもない日に沼地が私を墓地へ誘うのか、実はずっと疑問だった。疑問に思いながら、毎年準備をしている私も私だが……。
「気にする?」
「少しな」
「まあ……ほら、冬だと寒いし」
 なんて、沼地は少し考え込むような素振りを見せながら、身の無い理由を挙げた。
「あとは、そうだな……オフシーズンに行った方が良いんだよ。人がいなくて空いているから」
「テーマパークみたいに言うな。墓地にアトラクションなんてないよ」
「肝試しなんかは、墓地でしか楽しめない娯楽のひとつだけどな」
「そんなものカウントするな。心霊体験ならお前で間に合ってるよ」
 そこで、ぴしゃん。と、雷が鳴った。
 だから私と沼地の会話はそこで途切れた。
 最後の一言は要らなかったかもしれないが、撤回するタイミングも逃してしまった。

 

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