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「うっかりすっかり忘れていらっしゃるようなので、僕から言わせて頂きます。駿河先輩、僕にチョコ渡すの忘れてますよ?」
「いいや、予定にないものは忘れたりしないよ」
 五日前につつがなく終了したバレンタインデーにおいて、私は専らチョコレートを貰う側である。自分で言うのもなんだが、結構な数を貰う方かもしれない。普段使いしている登校用のメインバッグだけでは収まりきらない為、この日に限りサブバッグを用意することは忘れなかった。かように、例年通り貰う予定はあったのだけれど、渡す予定などついぞ立てたことがない。
「ええー? うっかり屋さんな駿河先輩の為にと思って、恥を忍んでわざわざ教えてさしあげたのに」
「じゃあずっと忍んでろ。催促なんかせずに」
 さも残念そうに眉尻を下げて見せる扇くんだったが、如何せんパフォーマンスだということを経験上知ってしまっているので、あまり罪悪感は湧いて来ない。
「それに、仮に私がチョコを渡す側に回ることがあったとしても、それはただ一人にだけだ」
「えー。こんなにも懐いている僕を差し置いて、それはあんまりじゃないですか?」
「今のところ、戦場ヶ原先輩以外に予定はないな」
「あ。そっちなんだ」
「そっちってなんだよ」
「いやまあ。てっきり阿良々木先輩に渡すのかと」
「? どうして私が阿良々木先輩にチョコを渡さなくてはならないんだ?」
「……それを聞かせたら流石の阿良々木先輩でも傷付くんじゃないでしょうか」

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