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「食欲旺盛な駿河先輩を見込んでのお願いなのですが……これ、僕の分まで食べてくれる気はありません?」
 と、真っ青なかき氷を前にしながら、扇くんが甘えてきた。彼が食している氷の山は三分の一が削られているけれど、残りを全部お腹に収めるには長い道のりになりそうだな、と推察する。
「食欲旺盛って言うけどな、扇くん。私も、これでも日頃から頑張って食べている方だから」
 積極的に食べて行かないと痩せていく体質の私は、今日もせっせとカロリー摂取に勤しむべきである。だけど、私は私で赤いシロップが掛かった山を食べ終えたばかりなので、扇くんの要請は辞退したいというのが正直なところだった。
「きみが一緒に行きたいって言ったんだろう。責任を持って最後まで食べるべきだ」
「こんなに大きいとは思わなかったんですよ。女子の如く胃が小さいもので」
「その言い訳は私の立場がないぞ」
「残しちゃっても良いですかね? 別に、命を頂いている訳でもないですし」
「それは――」
 と、反射的に何かを反論しかけたけれど、特に浮かばなかった。
 そりゃあそうだ――否、一緒に添えられた白玉やら練乳やら、ひいてはシロップに使われている着色料。その全てに人の手が加わっていないなんてことはないし、厳密には違うのかもしれないけれど――しかし感覚的に、扇くんがそう主張したがるのは、私にも分からない気持ちではなかったからだ。氷自体は溶けてしまえばただの水だし……。
 ただの水、か。
「はい、駿河先輩。あーん」
 記憶のフックに何かが引っ掛かりそうになった刹那。ふと前を見れば、扇くんがうんざりした様子で、氷が乗ったスプーンを私に差し出していた。
「あーん……じゃないよ。食べさせられ方が不服だった訳ではない」
「はっはー。着色料で舌が赤くなってましたよ」
「他人の口腔内に興味を示すな」
 舌に乗せられた青い味は冷たく、おかげで何を考えかけたのか忘れてしまったが、まあ良い。

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