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「こんなところに居たのか、阿良々木先輩」
 と、神原駿河は仕事着(バニーガール衣装)で、喫煙室の透明なドアを押し開けてきた。反射的に、僕は吸いさしの煙草を後輩の身体から遠ざける。フィルターはまだ長かった。
「休憩していると聞いて、随分探したんだぞ」
 そんな僕の配慮はつゆ知らず、神原は不服そうに頬を膨らませた。かように懐いてくれるのはありがたいが、実のところ、僕はこいつをまく為に喫煙室に避難していた側面もあるので、なんとも言い難い。
「これ、終わったら行くから」
 だから、ぶっきらぼうに投げた言葉には、素直に「応」と返事を貰うのが僕の理想だったのだが、
「そうか。ならば私も一緒に待とう」
 神原が選んだのは真逆の意思だった。……まあ、そうなる予感はしてたけどな。
 となると、僕に出来ることと言えば早めにニコチンの摂取を終えてしまうことくらいなので、少し深めに息を吸った。細く煙を吐き出す僕を見て、神原は言う。
「なあ、阿良々木先輩。私にも一本くれないだろうか」
 掛け値なしに愛想の良い笑い方だった。
 これもまた予想していた流れで、だから僕は日頃こそこそと喫煙所に通う羽目になっているのだが――とにかく、どんなに愛らしくおねだりされようと、返事はまたいつも通りのものを返すべきだと、僕はまた煙と一緒にため息を吐く。
「駄目だ」
「どうして?」
「身体に悪いから」
「ならば阿良々木先輩も禁煙するべきだ」
「僕は良いんだよ」
「阿良々木先輩が吸っているものなら、私も吸ってみたい」
 兎を模した耳飾りが、僕の心を試すように揺れる。

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