なんとなくのきまぐれで、僕は放課後、体育館に足を運んだ。その時間はバスケ部が練習をしていて、ともすれば神原駿河の練習風景が見られるかもしれない、と考えたのだ。男の後輩が汗を流している姿を見て何が楽しいのかと自分でも思うのだが――要するに、その時の僕は退屈していたのだ。小人閑居して不善をなす。そんな心境に近いかもしれない。
 なるべく人気のない通路を選びながら、二階席へと移る。人目をはばかるように、端の方の手すりにもたれ掛かると、タイミングよくコートの中を駆け回っている神原の姿が見えた。今日の練習メニューが基礎トレーニングだったら見ていてもつまらないので、すぐに踵を返すところだったが、幸か不幸か、僕の目に映ったのはあいつがダンクシュートを決めたシーンだった。
 そこまでタッパはない癖に(それでも僕より背が高いので癪だ)、あいつはああも簡単そうに跳んでみせるから、対戦相手にとっちゃ厄介なんだろうな――と、対象をしげしげと眺めていたら、ふと視線があった。すると、後輩の顔はぱあっと明るくなったが、こっちは笑顔を返す気にはなれなかった。なんだかなあ。
 つーか、この距離ですぐに僕だと分かるって、一体どんな視力してんだよ。
 と、ぼやいたのは勿論心の中でだけの筈なのだが、何が伝わってしまったのだろうか。コートの中から神原がウインクを飛ばしてきたので、僕はさっと右に避けた。もしも女子だったら、あるいはあいつのファンだったら黄色い声を上げてやったのかもしれないが、悲しいかな、僕はそのどちらでもなかったので、相手が飛ばした目配せは後ろの壁に当たって落ちたと思われる。

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