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 姉が出て行ったのは私がまだ学生の頃だった。
 姉はある日突然居なくなった。彼女の自室は空っぽだった。姉を示すものが何ひとつ残されていないのを確認し、実にあの姉らしいと私は思ったものだった。
 例えば、お気に入りだと言っていた小説。例えば、葛藤の末、背伸びして買ったという化粧品。昔は私も少女だったから、歳の離れた姉の持つそれらに憧れの気持ちを持つこともあったけれど、いつからか羨ましいとすら思わなくなっていた――と、自覚したのはこのタイミングで、姉の全てが私の前から消えてからだった。
 私から見た私の姉は鬼のように厳格な人物で、ものを不用意に持つことを良しとしないというか、言い換えれば、何を持つにも理由めいたものを見つけて、紐付けて、それをもっともらしく人に説くような偏屈な質だった。それが高じて――あれは当時の私と同じくらいの歳の頃だったかな。自分を甘やかす一切を排除しようとする化物を産んだ姉は、最終的にはその矛先を自分のボーイフレンドに向けてしまった。以来、姉は自分に必要なものしか周りに置かなくなってしまった。
 そんな経緯を知っていたからだ、とは言わないが。家に残された私は、姉にとって必要なものではなかったと証明されたかのようで、安堵の気持ちを覚えたものだった。勿論、私の姉がかような薄っぺらい感情論で動くような人物だとも思っていなかったので、この感傷が不要なものだということは、まだなんでもは知らなかった私でも知っていたことだが。
 それよりも、あの姉を見て育った私は、一体どんな化物を産むのか――当時の私は、そのことで頭が一杯だったのは幸いだった。
 そんな昔話も、もう十数年前のことになる筈なのだけれど、つい先日出来たばかりの友人――まだ年端もいかない男子高校生の彼を見ていると、どういう訳だか私は、姉が好いていたボーイフレンドのことを思い出す。

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