添い寝

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 沼地蠟花と一緒に寝ていた頃の話だ。
 あいつは不躾で趣味の悪い悪戯が好きだったから、寝ている私の胸に自分の頭を乗せてくるような奴だった。頻繁に私のおっぱいを枕代わりにした。
 体躯だけ見れば私よりやや小柄な彼女のことだが、それでも人間の頭なのでそれなりに重くて息苦しいし、そして何より固くて痛いので、それをされる度に私は眠い目を擦りながら抗議する羽目になる。
「重い。退けろ」
「うん」
 端的な抗議には端的な受け流ししか返ってこなかった。
 というか、返事こそあれど無視と同義じゃないか。
 私の異議申し立てに対し、沼地は自分の頭どころか表情ひとつ動かさない。私からは顔が見えないので正確なところは分からないけれど、声のトーンがそんな感じだった。興味が沸かない時に出すときの相槌だ。
 頑張って首を持ち上げると、痛みが酷い茶髪の中につむじが見えた。それでもどんな面をしているかは分からなかったので、私は首の筋肉の酷使を止めた。
 仕方が無いので、胸元に乗った頭に手を置いてみる。痛みが酷い茶髪というのは実は柔らかく、私の手指にふんわりと絡むので、なんとなく、それになら免じられても良いかな、という気もしてくる。
「お前は見た目で損をしてるよな」
「よく言われるよ」
「かと言って、中身で得をしている訳でもないよな……なんなんだろうな?」
「流石に、そこまで酷いことは初めて言われた」
 酷いことかな、これ。
 私の両胸を平坦にせんとばかりに、お前が頭の角度を変えている現状に比べたら、私の話の意なんて些事に過ぎないと思うのだが。止めろ、乗せても良いけど極力動かすな。胸が潰れる。
「また大きくすれば良いじゃないか」
「うるさいよ」
 お前の方が色々と酷いこと言ってるじゃないか。
 かように文句は散々言っていたが。でも、
「私はお前の頭を胸に乗せるの、結構嫌いじゃなかった」
 のだけれど、それはお前が居なくなったから持てる感傷なのだろうな、とも分かる。

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