わすれがたみたち

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「親父が死ぬ前に、ちゃんと腹を割って話をしておくべきだったよ」
 相田先生が酒を飲む時、三度に一度はそんなことを言う。この村において酒は貴重品だし、相田先生が未成年を酒の席に招いてくれること自体が稀なことだから、僕にとっては三度に一度のことだとしても、それはごく偶に漏らされる先生の本音なんじゃないか。なんて、僕は睨んでいる。

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2020/9/26 10:46の方いつもお世話になってます!素敵な絵、素敵な小説、いつも見させて頂いてます。お二人の作品が大好きです!これからもどうかお体に気をつけて健やかでいてください……本も買います!

こちらこそお世話になってます。拍手ありがとうございました!
サイトの方はサイレント更新が続いているのですが、見てくださった報告を頂けると大変励みになります…!本は今後もなるだけ出していきたいので、もし気になるものがあった際にはよろしくお願い致します。(92ka)

 

2020/9/15 8:52の方こんにちは、先日拍手をしたものです。
通販のことでお話しました。実はあのときあなたの
Twitterを見てしまい、罪悪感にかられ、謝罪をしました。
あのとき、うそをついてしまいました。
また通販を利用しますと。実は、Twitterを見てしまったとき、結構なショックを受けてしまい。 (恐らくあなた方が
わたしの感想を見てショックを受けてたように。あくまで私の妄想ですが)あなた様の本を見たりするとそのことが、鮮明にフラッシュバックしてしまうような感じになってしまいました。すみません結構キツイです。
ここまで私の好き勝手に思いを吐露してきました。
それでは失礼します。不快な思いをさせてしまって本当に申し訳ありませんでした。さようなら

拍手の返信が遅くなってしまい申し訳ありません。確認が遅くなってしまった所為で不快な思いをさせてしまっていたことを謝罪致します。通販の利用や報告の有無に義務はございませんので、気に病まれなくて良いかと思います。ただ、私も人様に不快な思いをさせる為に本を作っている訳ではありませんので、当方の本が不要になったら破棄してくださいますようお願い致します。(92ka)

 

2020/9/11 2:57の方本を購入させていただきたいのですがずっと非公開のままなんでしょうか?

在庫確保の都合で一時的に非公開にしておりました。事前のアナウンスを失念しておりました、すみません。再度通販ページを公開致しましたので、よろしければご確認ください。(92ka)

 

2020/9/10 13:12の方先日通販を利用させてもらったものです。
通販の在庫を聞いた際に感想をかなりざっくりかいてしまいました。私的にはなんだかとても感想を詳しく書くのはどうやら苦手でありまして、どうも照れ臭くなってしまうところがあります。なのであんなにざっくりとした感想ですましてしまいました。ごめんなさい
今後も通販は利用したいと思っておりますのでどうか
ご自愛くださいそれでは失礼いたしました。

お返事が遅くなってしまい大変申し訳ございません。頂いた感想は全てありがたく拝読しております。
私自身が丁寧な感想を書くのが苦手なタイプであることも理由にあるとは思うのですが、表現の方法はどうあれポジティブな感想に優劣はない、かつ返信の有無は受け取り手の好みや都合、その他作家側のルールによるものかと思っておりますので、感想を送った方が謝る必要はないかと思います。こちらの返信の都合で不快な思いをさせてしまっていたらすみません。この度はメッセージありがとうございました。(92ka)

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「突然で恐縮ですが駿河先輩、ちょっとピアスでも開けてみませんか?」
 突然も突然、突然が過ぎる。と、私の耳たぶにピアッサーを拳銃の如く突きつけてくる扇くんに、珍しく激しい抵抗を見せている私だった。
「いや、ちょっと待て。話が見えないぞ扇くん。とりあえず話してみろ。正直、積極的にきみに対する理解を深めたいとは思わないけれど、多分、話せば分かるから。とにかく、その、ピアッサーを下ろして」
 先輩を驚かせる為にわざわざ購入してきたのであろう、その穴を開ける為の工具を握る手を制止し、なんとか顔から引き離そうとしているのだが……結構力強いな、この子。ぐぐ、と力を込めて握り合った手と手は完全に拮抗していた。
「はっはー。話せば分かるって、控えめな命乞いのようでいて実は不遜な台詞ですよねえ。最終的に自分の意見を押し付けたいだけの言い訳じゃないですか。第一、僕達の間に対話は必要ありませんよ」
「必要ありまくりだよ。コミュニケーションを諦めようとするな。私は自分の意見を押し付けてでも自分の貞操を守りたい。そのくらいの権利はある筈だ」
「貞操は貞操でも耳たぶの貞操ですがね。まあ、思いの外普通の貞操観念をお持ちの駿河先輩に免じて正直にゲロっちゃいますと、僕も長くお付き合いしている先輩相手に、心を込めたプレゼントのひとつくらい用意しないと、いい加減愛想を尽かされてしまうかなー、と思いまして」
「尽かすとしたら今だよ、今!」
 私の耳元で試し打ちとばかりに針をガシャガシャやられている今!
 というか、開けるにしてもそんなにいきなり穴を開けるものなのか。冷やしたりとか消毒したりだとかするんじゃないのか? 開けようと思ったことがないから知らないけど、少なくとも心の準備くらいはさせて欲しい。
「冷やすとかえって開け辛いらしいので大変だと思いますよ」
「そんな正論っぽいこと返されても困るよ」
「えー? というか、駿河先輩なら痛いのがお好きだと思ってたのに。あなたの変態性って所詮その程度なんですね」
「そっ……!? いや、いきなり他人の耳に穴を開けようとする方が嗜好としては特殊だからな?」
「あはは。駿河先輩も中々言うようになりましたねえ――あっ」
 と、扇くんが上に覆い被さったまま、一貫してにこりともしない瞳で笑顔を作ったところで、私の巴投げが決まった。この技は安易に使いたくなかったのだが……しかし、彼は私の忠実な後輩を名乗っておきながら全く忠実な素振りを見せないので、私が有する奥義のひとつを見せるのもやむを得まい。
「あいたたた……酷いじゃないですか」
 数秒の間を挟んだ後、扇くんは部屋の隅から起き上がってきた。痛みを訴えてはいたけれど、作った笑顔は崩れていなかったので、同情の余地はないと判断する。
「そもそもどうしてピアス穴が開いていない人間にピアスを贈ろうと思ったんだ」
「ええーっと、……イヤリングだと思って購入したら、ピアスだったんですよね。返品するのも面倒だったし、だったら駿河先輩の耳にピアスホールを開けた方が手っ取り早いかと思って」
「本当の本当に私がきみに愛想を尽かすとしたら、多分今のタイミングだったな」
「ほらほら、どうせ話しても分からないでしょう?」

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「駿河先輩って、僕のこと好きでもなんでもない癖に、どうして僕とセックスするんですか?」
「……きみ、そういう面倒くさいことを言う子だっけ?」
「どちらかと言えば。というか、そんな遊び人みたいな返しはしないでください」
 傷付いちゃうじゃないですかー、と背中の方で扇くんがじっとりと笑った気配がしたが、大したダメージも追ってなさそうだった。こういう口ばっかりのところはそれこそ、面倒くさいの筆頭なのだが。
「あーあ。憧れの先輩が性にだらしないだなんて、見損なっちゃうなー」
 シーツの上に寝そべっていた私を、半ば潰すようにのし掛かっていた扇くんは、詰るようにそう言った。元からゼロ距離だった四本の脚の位置が、絡むような配置に組み変わる。
「今、きみが言える、ような、台詞、か……?」
 彼の下半身が、立てた膝を軸に動き始める。肌と肌が擦れる感覚はするのに、耳から入ってくる音はぐちゃぐちゃと水っぽくて、何をしているかは察しがつくが、あまりフォーカスを当てたくなくて、止める。
 微睡みに落ちそうになっていた頭をゆるく持ち上げると、自分の長い髪の毛先と扇くんの掌が目に入る。伸びっぱなしの髪。手袋をしたままの手。手首までを黒いシャツが覆っているので、私はその下の肌の色を知らない。
 なのに。
「ねえ、どうして僕と、してるんですか?」
「……っ」
 腰の奥から迫り上がってくる感覚が瞼が重くしてきたので、睫で視界に薄い闇が重なる。私から見えない方の手が、私を扱く。押して、引いて、圧して、退いて、が繰り返されて、私の喉が愉悦の声を作る。だけど多分、彼はこれが聞きたいんじゃあない。
「はあ……なんか疲れちゃったなあ」
 緊張と解放を一定量繰り返すと、体勢はそのまま、体重がもろに落ちてきて、私の背骨を圧迫した。着地点には私の頭があった。扇くんはそのまま顔を覗き込んできて。
「ねえ、どうしてだと思います?」
 三度同じ事を訊いた。そうやって私を責める彼の唇の感触も、私は全く知らない。

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「はあ……最近、なんだかやる気が出ないんですよねえ」
 講義が始まる前。教室の机に片肘を付けたまま、扇くんが言った。
 なんで彼が私の通う大学の講義室にいるんだろう? という疑問もないではないが、その突っ込みを入れるのも今更というか、野暮な先輩だと思われたくはないので、ここはスルーといこう。
 代わりに、
「きみがやる気に満ち溢れている様なんて想像付かないけどな」
 と、ちょっと強めに詰ると、扇くんは肘どころか頬まで机にぺったりとくっつけてうなだれながら、
「えー? そりゃあ僕は駿河先輩のように、いつでもどこでも元気一杯、お気楽に生きているキャラじゃないですけど、多かれ少なかれアップダウンはありますよ」
 と、反論した。台詞の半分以上が失礼極まりない言動で出来ていたので、危うく私の方が会話のやる気を見失いそうになる――のをぐっと堪えて。
「ちょっと早いけど、夏バテかな?」
「夏バテってなんですか?」
「えっ知らないのか? ……えーっと、暑くて食欲がなくなったり、身体が怠くなったり、そういう疾患のことだよ」
「あー、じゃあ多分それです」
 活力に欠ける肯定の返事をしながら、扇くんは私が持参していたカフェラテをストローから啜った(勝手に飲むことを許可した覚えはない)。確かに、私を煽るように見つめて来る瞳を覗き込んでみれば、心成しか虚ろな気がする(いつもだけど)。身体のみならず気持ちまで重苦しそうだ。
「あーあ。駿河先輩なんかに心配されるなんて、僕らしくないなあ」
「きみが落ち込むのは勝手だけど、先輩を巻き込むな。心配し甲斐がなくなるだろうが」
「はっはー。人は一人で勝手に落ち込むだけってやつですか」
「叔父さんの名台詞をそう悲劇的にもじって良いものなのか?」
 しかし、扇くんも病気になるんだなあ、と。
 考えてみれば極々当たり前のことなのに、何故かとても珍しい事象に遭遇したような気持ちになりながら、中身が半分まで減ってしまったカップを傾けていると。
「うーん……ちょっと自己肯定力を高めたいので、駿河先輩。手始めに僕の好きなところを百個くらい挙げて貰えませんか?」
「私がきみの好きなところを百も言えると思っている時点で、きみの自己肯定力は問題ないよ」

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