「ホッピーと、鶏皮ポン酢と、あとたこわさお願いします」
「えっと……ジンジャーエール」
 耳慣れないメニューに被さった自分の声がやけに子供染みて聞こえた。そんななかったにも等しい小さな劣等感を察されたのだろうか。注文を切った店員さんが去った後で、
「神原も飲んだら?」
 と、向かいの席からあまり褒められない誘いが飛んでくる。それは本当に、深い意味は無さそうな声音だった。だけど、
「あと一年したらな」
 と、私は適当にあしらう。私は良い大人じゃないので――それこそ詐欺師でもないので未成年の前でも酒を飲みますよ、と茶目っ気と自虐が多分に含まれた友人の宣言を聞いて、羨ましいと思った気持ちが少しもなかった訳ではない。しかし、私の初めては戦場ヶ原先輩や阿良々木先輩に捧げたい、という期待を捨て切れていた訳でもなかった。あの人達は既に初めてを済ませていると聞いているが、あわよくば、二人同時のタイミングが理想だ。
「そういうこと私の前で言う?」
「いや、決してあなたが役不足だと言っている訳ではないのだ。気を悪くしたのなら謝る」
「その誤用、久しぶりに聞いたわ」
 彼女が呆れたように目を細めたタイミングで、大きなグラスが二つ、私達のテーブルにやってきた。私の前に置かれたグラスの中身は薄い琥珀色の炭酸飲料と大きな氷で満たされていた。一方、相手の前に置かれたものは透明で、量も半分程度しか入っていない。不思議に思っていると、彼女は慣れた手付きで、一緒にやってきた褐色の瓶から何かを注ぎ始めた。あっという間にビールのような見た目になったそれを、ぐるぐるとマドラーで掻き回している。
「はい。じゃあお疲れ様です」
「うん。お疲れ」
 よく分からないまま、促されるままグラスをぶつけて、二人で喉を鳴らした。私のジンジャーエールにはストローが刺さっていたけれど、相手の真似をしてグラスの縁に唇を付けてみる。勢い良く胃に落ちてくる炭酸は少しキツくて鼻の奥がツンと痛んだ。
「果たして一年後、本当に私とこうして飲んでくれるのかな。神原くんは」
 なんて、まだ始まったばかりだというのに、アルコールの味を知る彼女は随分と辛気くさいことを言う。

0